複数部署で横断的に活躍できるスタッフ教育を
Posted on 2020-09-16
新型コロナウイルスで市況が一変してから、宿泊業界は慢性的な「人材不足」と言われていたのが一転、「人材過剰」とさえ言われた時期もありました。
しかしながらそれは、緊急事態宣言が出て営業もままならなかった頃の一時の話であって、GoToトラベルキャンぺーンをはじめとした国内の旅行促進策が活発になってからは、やはり人材不足に悩まされています。
多くの宿泊施設で活躍していた外国人人材も、コロナ禍を機に多くの方が帰国してしまっています。
コロナ前までは求人活動を行っていても全く反応が無かったのと比較すれば、求職希望者の数自体は増えているけれども、期待に反してこれまで以上に採用基準を満たす人が少ないというのが実情のようです。
それでも稀に「採用したい!」と喉から手が出るような方もいらっしゃるようですが、それが休業要請が掛かっていた真っ最中でいつから営業開始ができるかもわからない時期であったため泣く泣く採用を見送ったり。
珍しく新卒のエントリーがあって喜んだは良いものの、来年、特にGoToトラベルキャンぺーンが終了する2月以降の動向が全く見通せない中で、4月からの採用するには不安が大きく、採用に踏み切れなかったりとタイミングが合わないことで断念してしまうこともあるようです。
求人といえば、「まずは費用の掛からないハローワークへの情報掲載を…」と考えるものの、年々掲載へのハードルが上がっていて、年間の休日数や勤務日数、勤務時間の上限の規定等で掲載したくてもできない宿泊施設が増えています。
宿泊施設としても労働基準法に則った勤務形態を採りたいものの、当日迄宿泊・日帰り予約を受け付けていて、当日予約が数十名も上振れするような場合にはなかなかその通りには行きません。
旅行者側はコロナ禍で、先が見通せずに、先々の旅行の予約をしにくい状況ですので、キャンセル料のリスクも勘案して、なるべくギリギリに予約を入れる傾向にあります。
極端な場合、当日予約もOKの旅館を予め調べておいて、当日を迎えて市況(旅行先でクラスター等が発生していないか)や自分たちの体調コンディションが良ければ利用するような旅行スタイルです。
宿泊施設側も、このような旅行者の行動スタイルを把握していて、少しでも売上・収益を上げるためにも、対処できるギリギリまで予約を受け付けています。
そうすると、突発的にスタッフに出勤してもらったり、急遽残業をお願いする場面が出てしまい、その結果、なかなか労働基準法をクリアするのが難しくなっています。
企業側は、突発的に増えたお客様を対応する“ほんの数時間”の為にスタッフを1人多く雇って、社会保険等を負担するのに二の足を踏むのは当然でしょう。
このように引き続き人材不足に悩まされている宿泊業界で推し進めなくてはならないのは、部署を超えた勤務スタイルです。
業界では数年前より「マルチタスク」等と呼ばれていますが、スタッフを部署専属にするのではなく、横断的に様々な部署で働いてもらう形態です。
例えば、出勤時は仲居係として朝食を提供、チェックアウト時間になったらフロント係として精算処理をして、チェックアウトが済んだら清掃係として客室清掃に入り、チェックインの時間になったらフロント係としてチェックイン対応をするといった具合です。
ご存知の通り、宿泊施設では時間によって忙しくなる場所が遷移していきます。それに伴ってスタッフの勤務場所も変えていくのです。
個人的な見解で、スタッフのこれまでの専属部署によっても異なりますが、主な部署で他部署のスタッフが働ける【難易度】は以下の通りです。
フロント(で他部署スタッフが働く難易度)…中~高
予約…高
仲居・客室案内…低~中
仲居・料理提供…中~高
調理場…中~高
清掃…低~中
事務所(経理、人事)…高
難易度の高さによってその部署習得に掛かる時間も変わってきますし、個人差もありますので、その点を踏まえて体制作りへの所要時間を見積もっておく必要があります。
「フロントスタッフ」に各部署の業務を習得させる場合と「調理スタッフ」の場合では難易度が変わってくるため、本来であれば各部署ごとに難易度を出すことをお勧めします。
ある御支援先での事例ですが、接客部門を除いては人員に余裕があるとのことでしたので、まずは業務の関連性が高い調理場スタッフに料理提供をしていただくことを検討いただいております。
(幸いお客様の前に出ても問題ない(接客向きの)調理場スタッフが多いとのことでしたので)
ちなみに、ハローワークで旅館の求人を検索していると「お客様の前に出なくて良い仕事です!」というキャッチコピーを全面に打ち出しているところがありました。悲しいかな、それだけ「接客」という職種が敬遠されているという事実に直面します。
旅館での人手不足は「客室が空いているにも関わらず、料理提供の手が間に合わないため食事付きの予約が受け付けられない」という事態が発生してしまいます。
一般的に、多くの予約が入る=繁忙日で料金を上げていることが多く、この機会損失は売上に大きく影響しますので、極力避けたいものです。
とはいえ、求人活動をしてもそもそも何の反応も無かったり、エントリーがあったとしても思うような人材が集まらなかったり、採用できたとしてもすぐに辞めてしまうリスクも伴います。
この人手不足を解消するには新しい人材を採用することへの期待を大きくするよりも、社内で複数部署間で活躍できるスタッフを教育するのが得策です。
人材不足解消だけでなく、各部署での(ベテラン)スタッフが急遽休まなくてはならなくなった時の危機管理の観点としても有効です。
あるベテランスタッフが「万が一、私がコロナに感染したら終わりですね」と仰っていたのが非常に印象的で、このような考えを推奨するきっかけにもなっています。
今後の事業計画の中のアクションプランの1つに、「スタッフの複数部署間で の勤務体制構築」を加えてみることをお勧めします。
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株式会社観光文化研究所 井川今日子
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