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【価値のある非効率】と【価値のない非効率】

Posted on 2021-10-25

食事処を個室食事処にリニューアルしたご支援先で、「個室処にリニューアルしてワイヤレスチャイム(ファミリーレストランのテーブルで良く見かけるもの)を入れたためか、居酒屋のように注文が入りました!」とのお話がありました。

個別食事処にリニューアルすると、食事の進み具合が見えづらいという宿側のデメリットはあるものの、他のお客様やスタッフから視界が遮られるため落ち着いて食べられるというお客様側のメリットや、ドリンク注文が飛躍的に増えたというプラスの面を考えるとリニューアルして正解!という結論です。

食事処を個室にしてワイヤレスチャイムを導入したことで飲料注文が増えたというのは様々な理由が絡んでいると考えられます。

・お客様がスタッフのタイミングを見計らうことなく、いつでも用事があることを知らせられるようになった
・スタッフを呼ぶのに声を出す必要が無くなった
・内線電話とは違い、呼び出しても応答が無いという煩わしさが無くなった

等が挙げられます。
目に見える範囲にスタッフがいるタイミングで、席から声を上げて終始動いているスタッフを呼び止めることを考えると、大分利便性が上がると言えます。

宿側からしても、
・常にお客様の目に届く場所にスタッフを待機させなくても良くなった
・複数のお客様に同時に呼ばれてもどちらを先に対応するかを迷わずに、ボタンが押された順にテーブルを回れば良くなった
・直接声を掛けられた場合は直行しなければならないが、チャイムを押された場合は少しの間は待たせられるようになった
・注文数が増えた

等というメリットがあり、お客様・宿側双方にとって良い環境が築けているようです。
上記に加えて「あるテーブルでクレームやトラブルが起きても他のテーブルに知られにくくなった」というのも、お客様・宿側双方にとってのプラスになると思います。


さて、今回の新型コロナウイルスがまん延してからというもの、このような非接触の接客スタイルが急速にがもてはやされるようになったのは皆さん承知の事実です。

日本では感染予防のためのワクチンの接種が進み、発症した場合に有効な薬が開発&承認される等、ある程度コントロールできるようになる未来も描けるようになってきたのは、ここ最近の新規感染者数の激減に他なりませんが、いわゆるアフターコロナの段階を迎えた場合に、このような非接触のシステムが無くなるかと言えばそうではありません。導入スピードも加速することはあっても衰えることは無いでしょう。

コロナがまん延する以前も人材不足、業務効率・生産性向上の視点から、“なるべく接客現場から人材の関与を少なくしよう”というきらいがありましたので、感染予防という意味合いだけでなくDX推進という観点からも、今後も導入推進され補助金も付くのでしょう。
最近では、「旅館に自動配膳ロボを紹介しませんか?」という営業の話もあるほどです。

こうなる未来を予想したときに、旅館と他のスタイルの宿泊施設(ホテル、ビジネスホテル)との垣根が果たしてどこにあるのかを意識しなければなりません。
立地やハードに特長があってその魅力で集客できる場合は良いですが、旅館としての価値を出していくには何が必要で、何が求められているのかを考えないと、宿泊料金に食事が付いているか否かの差でしかなくなってしまいます。

そこで必要となるのが、自社にとって【価値のある非効率】と【価値のない非効率】をしっかり分類することです。

例えば、お客様との会話をして様々なオプションを提案できるフロントスタッフがいる旅館に無人チェックインシステムを導入することはデメリットとなるでしょうし、食事中の会話からお客様に最適なお酒を提案できる仲居さんがいる旅館にタブレット型のオーダーシステムを導入することによる機会損失は計り知れません。

このように、お客様と積極的にかかわり、そこで顧客満足を獲得できるという、接客で高評価を得られている旅館でいたずらに非接触のシステムを導入するべきではありません。この場合は、【価値のある非効率】と捉え、システム導入に踏み切る前に熟考する必要があります。

冒頭で触れたように、お客様側のスタッフを呼ぶ利便性を優先して導入するのなら顧客満足につながる為良いのですが、安易に宿側が説明の手間を省きたい等という理由で闇雲に導入するのはリスクが伴います。
単純なシステム導入は、効率は上がっても顧客評価を落とすということにもつながりかねないため、自社の接客・おもてなしとの相乗効果が期待できる場合に導入することをお勧めします。

反対に、お客様と積極的にかかわることでの顧客満足獲得が難しい宿(常に派遣スタッフが一定数いて、ベテランスタッフが育っていないケース等)では、【価値のない非効率】と捉え、前向きにシステム導入を検討すべきでしょう。

この考え方は、接客場面だけではなく、社内のシステム導入を検討する場合にも当てはまります。

例えば、いつ何を聞いても即答できる優秀な経理スタッフが居る場合は、スタッフを排除してまでAIを活用した経理システムを導入する理由はありませんし、対面で会議をすることで、様々な意見が飛び交い活発な議論ができる場合にはオンライン会議システム導入は不要です。
当然その逆の場合は、【価値のない非効率】と分類され導入を推進すべきです。


次から次へと開発され一見便利に見えるシステムですが、導入前に自社にとっての【価値のある非効率】を失ってしまうものか、【価値のない非効率】を排除できるものなのかをしっかり吟味したいものです。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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