「2022年04月」の記事一覧

従業員離職率を改善する“5つの場”づくり

Posted on 2022-04-25

「従業員が2名辞めることになりました」

先週ご支援先旅館の女将と打合せしていた時の話です。
従業員数の少ない小規模旅館の為、「2人もですか?」と驚いて尋ねると、従業員の2人が1ヶ月違いで辞めたいと言ってきたのだそうです。

急に言われても人繰りのこともある為、後から言ってきた方に「少し辞める時期を延期してもらえないか」と相談してみても「もう次が決まっているので無理です」との回答であった様です。

従業員の私生活においても面倒見の良い女将で、コロナ禍で休館も多く雇調金もしっかり出していたので、非常に落胆した話しぶりからは恐らく裏切られた気分だろうなと察する他ありませんでした。

去っていく従業員を嘆いても仕方ないので、今後について離職率を下げるにはどうしたらよいかという議題に移すことにしました。


ところで、従業員の離職率についてですが、いま大企業を中心に非財務情報を盛り込んだ統合報告書の作成が必要とされています。
ESGレポートとも言われ、企業が取り組むE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)についての取り組み情報を盛り込んだレポートのことを差し、世界的にみれば投資家は財務情報と同じかそれ以上に非財務情報に重点を置き投資先を見定めると言います。

そのS(社会)の部分には、従業員に関する情報開示が求められており、離職率も企業が適正経営をしているかどうかの重要な判断材料の1つとなっています。

ホスピタリティ、レジャー業界の大手企業オリエンタルランド社のESG情報にも従業員関連データが報告されています。
 http://www.olc.co.jp/ja/sustainability/social/data.html

2019年と2020年とではコロナの影響を受ける前と正に受けている年で参考にしづらい指標ではありますが、オリエンタルランドの指標では2019年からデータの参照元に大幅な変更があった上、2019年以前の情報が少ないため、この2年を比較することとします。

■平均勤続年数
 2019年 10.8年 /2020年 9.8年

■離職率(定年退職は除く)
 2019年 1.11% /2020年 2.66%

■新卒入社者の定着状況、3年後定着率
 2019年時点 97.5% /2020年時点 90.9%

非常に特殊な2年の比較で、断片的な情報ではありますが、単純に数字を比較する限りでは、数字は悪化し従業員の定着が安定していないことが判ります。

なお、【厚生労働省 雇用動向調査 産業(大分類)別入職・離職率】の指標を見るとの宿泊業,飲食サービス業の離職率はワーストで
 2019年の33.6% /2020年 26.9%
という結果でした。こう見るとオリエンタルランドの離職率が悪化したとはいえ、優秀な数値であることが判ります。

オリエンタルランドでは従業員データに対して、どのような手を打っているかを示すものとして下記の指標を挙げています。

■研修時間(社員向け/1人当たり)
 2019年 13.5時間(20,000円) / 2020年 9時間(8,000円)

■企業風土とES(従業員満足)関連データ
・「I have アイデア」応募数
 2019年 1,479件 / 2020年 2,075件
・「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」で交換されたメッセージ数
 2019年 475,497枚 / 2020年 未実施
・スピリット・アワード受賞者数
 2019年 522名 / 2020年 未実施
・「ファイブスター・プログラム」で上司からキャストに手渡されたカード数
 2019年 11,042枚 / 2020年 9,416枚
・サンクスデー参加者数(準社員/出演者)
 2019年 約17,000名 / 2020年 未実施
・サンクスデーキャスト役参加者数(役員、管理職、社員)
 2019年 約1,400名 / 2020年 未実施

企業風土とES(従業員満足)関連データについて、各項目の詳しい内容まではわかりませんが、
・従業員を教育する場
・従業員のアイデアを吸い上げる場
・従業員を表彰する場
・従業員が評価される場
・従業員を労う場
を整えていることが判ります。
(以前、ディズニーリゾートで働くスタッフの不遇さが「やりがい搾取」と 問題となったゆえに始まった取り組みかもしれません)

私もまさに従業員の会社へのエンゲージメント(会社への忠誠、自発的貢献)を高めるには上記の5つの場が必要であると考えています。


話を戻しますと、冒頭のご支援先の女将には、まずは従業員に日報もしくは週報を書いてもらい、それに対して女将や幹部社員がフィードバックすることをお勧めしました。

『好きの反対は嫌いではなく無関心』という言葉がありますように、従業員が働くモチベーションが湧かなくなるのは『誰も自分を評価してくれない』という状況です。
誰も自分を評価してくれない環境に身を置くと、従業員は『自分は果たして会社の役に立てているのか?、成長出来ているのか?』という疑念を抱くようになり、他の居場所を探すようになります。

日報を書いてそれに対するフィードバックをすれば、従業員を評価・教育し、従業員のアイデアを吸い上げることもできます。そうすることで従業員は会社の自分に対する関心を実感することができ、会社に貢献出来ていることや時には自分のアイデアや意見が通ることで、成長を実感できるようになります。

また、こちらのご支援先では夏休みを迎える前、丁度新たな従業員が入社することもあり、教育の場としての研修計画も立てています。

従業員を労うことは普段からなさっている女将ですので、これまで通り続けて頂き、今後は従業員を評価する場も作っていこうと考えているところです。


今回の事例のように従業員の離職率の高さに頭を悩ませている場合は、
 1.従業員を教育する場
 2.従業員が評価される場
 3.従業員を労う場
 4.従業員のアイデアを吸い上げる場
 5.従業員を表彰する場
という5つの場が作れているかどうかを振り返ってみることをお勧めします。

場(土壌)が作れてはいても、従業員に上手く伝わっていないことも多々ありますので、その場を改めて分かりやすい形にして提供してみてはいかがでしょうか。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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SDGs推進と注意したいグリーンウォッシュ

Posted on 2022-04-11

先日行った奄美大島の視察先で、特に環境面でSDGsを意識した取り組みをされていたので紹介します。

SDGsとは、既にご存じの方も多いと思いますが、簡単に言うと持続可能な開発目標で、差し当たっては2030年時点の目標設定およびその達成が求められています。

今回(今年4月)のプラスチック新法もその取り組みの1つです。

1945~2015年に生産されたプラスチックの総量は83億トンを超え、そのうち20億トンが使用中、残りの63億トンはゴミとなりました。
リサイクルや焼却に回されたのはわずか21%で、残りの79%は埋立もしくは自然環境へ流れています。
そのプラスチックは今でも大量に生産されており、2020年の年間の生産量は3.8億トンで全人類の体重に匹敵する重量とも言われています。
プラごみの海洋汚染を放置すると、2050年にはプラごみの重量が魚の重量を超えるなんて話も聞かれるようになりました。

脱プラの動きは、レジ袋有料化、プラストローの廃止等目に見える形で推進されるようになり、この4月からは宿泊施設で提供されるプラスチックアメニティの扱いや見直しも求められる段階に来ています。

このようにSDGsは良く環境問題と関連付けられることが多いですが、環境問題だけでなく「貧困をなくそう」とか、「全ての人に健康と福祉を」、「人や国の不平等をなくそう」といった目標もあり実に多岐にわたっています。


視察先1泊目の宿は、特にSDGsを謳っていた訳ではないのですが、エントランスを入るとすぐに頭上のTVモニターが目に入りました。
そこにはその宿泊施設の太陽光発電所の稼働状況が示されており、日射強度や気温、太陽光からの現在の発電電力、電力会社からの本日の発電電力量が確認できるようになっていました。
(宿の方にヒアリングすると、そもそも奄美大島は日照時間の少ないところでもあり、太陽光で宿泊施設の電力が賄えることは無いと仰っていました。)

客室に入ると、アメニティが環境配慮型のものになっており、それを知らせるPOP(恐らくアメニティメーカーが提供しているもの)が下記の通り設置されていました。
―――
「当館でご提供しているECOアメニティは、ポリプロピレン樹脂(PP)に天然の藁(わら)を配合する事で、プラスチック使用量を約40%削減しています。
『プラスチック使用量を低減する(REDUCE)』という方法で環境へ配慮した環境負荷低減アメニティです。
今後も環境保護活動に積極的に取り組んで参ります。」
―――


2泊目の宿泊施設も、特にSDGsを謳っていた訳ではないのですが、チェックイン対応が完全ペーパーレスで、タブレットに登録や署名をするというスタイルを取っていました。

客室には「客室清掃カード」という、連泊の場合の清掃の必要有無と希望時間を知らせるものが設置されていました。以下の必要な項目にチェックを入れる仕組みです。
―――
□ ゴミ回収
□ タオル回収
□ アメニティ補充
□ ベッドシーツ交換
□ ウェア交換
□ 洗面台清掃
□ トイレ清掃
□ 浴室清掃
□ その他リクエスト
―――


どちらの宿泊施設も環境への配慮が見られて好印象でした。

特に2泊目の宿泊施設は宿側のオペレーション面を考えても理想的で、ペーパーレスのチェックイン対応では、宿泊客が入力した内容がダイレクトに宿の顧客システムに入力されるでしょうから、宿スタッフが顧客システムに入力する手間も転記ミスも省けるでしょう。
また宿帳を保管するスペースや手間を省くことができるのも魅力的です。

また、客室清掃カードは「全てクリーンアップするというのが当たり前(基本型)」という既定概念を取り除くことにも役立ちますし、環境に優しいだけでなく、人材不足が常態化している宿泊業界にとっても望ましい取り組みと言えます。


しかしながら、その一方で、客室にはペットボトルの水や使い捨てのミニアメニティボトルやパウチ型のスキンケア用品が大量に置かれているのには違和感を感じました。
やっていることに一貫性が無く、消費者として「グリーンウォッシュ」という言葉が頭を過ぎりました。

別の話ですが、ご支援先のある地域で「町でのSDGs推進をPRするのに紙のパンフレットを印刷する」という話を聞いたときには開いた口が塞がらなかったのを覚えています。

グリーンウォッシュとは、環境に配慮したイメージを連想させる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた言葉で、環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではない状態であり、消費者に誤解を与えるようなことを指します。

いまはプラスチック新法がはじまって間も無く、丁度いまは過渡期ですので、在庫が終わるまでは提供するという宿側の事情は良く分かります。
その後にきちんと一貫性のある対応をするつもりがあるのかが重要になってきます。


1~2年前より全国の都道府県ではSDGs推進企業の募集を募っており、続々と企業が参画しています。また、最近出張に出ると、SDGsのバッジをスーツに付けて歩く方を多く見かけるようになりました。
今回のプラスチック新法を機に、脱プラ・減プラに取り組み、SDGsを推進する企業が急増していることを実感します。


SDGsをブームと捉え1つの側面ばかりに気を取られていると、それと矛盾した取り組みが目立つようになり、「あの企業はグリーンウォッシュだ」というレッテルが貼られてしまいます。
そうならないように、経営者だけでなくそこで働く従業員も正しく幅広い知識を付ける必要があると考えています。

 

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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