連載コラム~おもてなし接客術~

『おもてなし接客術』㉘―「損をさせないおもてなし」

Posted on 2017-12-20

旬刊旅行新聞12月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉘です。
「損をさせないおもてなし」

 先日、接客研修した旅館様で、時間を割いて協議したのが「お客様に損をさせてはいけない」というテーマでした。
 
 例えば、お客様の到着順に優先的に夕食開始時刻を決める宿が多いかと思います。午後6時―午後7時といった人気の時間帯が埋まってしまい、お客様の希望の時間に添えない場合に、スタッフの言い方次第では「選べなくて損した」と思わせることもあります。
 
 一方「自分の希望は通らなかったけど、スタッフの勧める方を選んで得した」と思わせることも可能です。
 
 おもてなしスキルを上げることで、一見損なことでも損と感じさせない体制を整えるよう注力するのが今回の目的でした。
 
 この旅館は夕食時間を2部制にしており、1部は午後5時30分、2部は午後8時という時間設定です。一般的に人気な夕食開始時間は午後6時30分や午後7時ですので、この時間設定では、早すぎる時間か遅すぎる時間かのどちらかで、食事をスタートしてもらわなければなりません。
 
 当然、この2つの時間設定だと、午後5時30分に集中しすぐに枠がいっぱいになります。この状況下で新たな予約が入ると、必然的に午後8時スタートの枠でお客様にご了承いただかなくてはなりません。
 
 スタッフ自身も午後8時には引け目を感じるようで、「大変申し訳ないのですが、午後8時でお願いできませんでしょうか」というスタンスで話をしてしまいます。
 
 そうするとお客様は、“人気の”午後5時30分の予約を取れなかったことで「損をした気分」に陥るうえ、「少しでも早く対応してもらえないか」とスタッフに交渉をし始めることになり、結果、スタッフが困り果てる、という悪循環を生んでしまいます。
 
 この現状を改善しようと、言い回しを改めることにしました。まずは「お客様のご希望には添えない午後8時の食事開始となってしまいますが、実は午後8時の方がお勧めです」と、伝える。
 
 次に「ご到着後は、まずはお風呂に入っていただき、浴衣に着替えてから是非ラウンジをご利用ください。午後8時までは、お食事中のお客様がいらっしゃるので、大浴場もラウンジも空いています。運が良ければ貸切状態でご利用いただけるかもしれません」と、食事時間までの時間の過ごし方を提案しながら、メリットを挙げて午後8時がお勧めである理由を伝える。
 
 このように一見お客様に宿の都合を押し付けてしまう場面でも、「実は得なんです」という“言い回し”を“自信を持って”すれば、お客様はすんなりと受け入れてくださることも少なくないと思います。お客様の御要望に応えられずに一見損をさせてしまうような場面でも、得と感じさせる提案・表現をして顧客満足を維持・向上させてこそおもてなしです。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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『おもてなし接客術』㉗―「残念な接客」

Posted on 2017-10-16

旬刊旅行新聞10月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉗です。
「残念な接客」


 
先日、ひさびさに都内のレストランにフレンチを食べに行きましたが、設備と料理に接客が追い付いていないのではないか、と残念に思う経験をしました。料理長の経歴は華々しく、ミシュランの星が付くレストランです。ある料理評論家が料理も接客もべた褒めしていたので、とても楽しみでした。
 
 ホールスタッフは皆流れるような接客をしており、さすがだと感心しました。料理説明も、こちらが質問したくなるような食材や調理法は予め説明するなど、安定した対応を見せてもらいました。料理は器遣いや盛付もさることながら、味もとても美味しく満足の行くものでした。
 
 それにも関わらず何が残念だったかと言うと、おもてなしが欠けているということでした。
 
 会計の際に「お食事はいかがでしたか」と声を掛けられたので「美味しかったです」と言うと、「ありがとうございます」と返されたものの、その後の会話が続きません。
 
 たまらず「こちらのお店は何年位になるのですか」と質問してみると、少し考えて「7年目になります」と返ってきましたが、やはりその後が続かず、まったく盛り上がらない(つまらない)会話となってしまいました。
 
 初めから、こちらに興味が無く、楽しませようという意識が無いことが見え透いてしまいます。例えば「何か印象的なものはございましたか」と一言返せれば、少なくとも会話を続けることはできます。
 
 あるいは「こちらの開業は7年になりますが、それまで当店のシェフは〇〇で料理長を務めておりました」と、1つでもエピソードを話すだけで、お客様に質問した価値を感じさせることができ、満足度が高まるはずです。
 
 帰り際に「ただ今、シェフがごあいさつにまいります」との案内があり、コック服を来たシェフが現れました。
 
 「ありがとうございます」との声に、「美味しくいただきました」と御礼を言うと、シェフは再度「ありがとうございます」と返すだけ。この対応にもがっかりでした。これだけなら別に出てこなくても良いのでは、というのが率直な感想です。
 
 料理長にお目にかかれること自体は、光栄なことだと思うのですが、形式的にでも「どちらからお出でですか」など、お客様に関心を示す一言が掛けられれば、どれだけ印象が違うだろうと思います。
 
 冒頭でも説明したように、スタッフはみんな、淀みない接客ができており、不満があるかと聞かれればそうではありません。
 
 また、お店の内装はお洒落で綺麗でしたし、趣向を凝らした料理は、見た目にも味にもとても満足でした。
 
 一方で、せっかくこのようにレベルの高いものを提供できているのだから、接客もそれに合わせられたら、さらに良くなるだろうに、とお節介ながらも、残念に思ったできごとでした。

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『おもてなし接客術』㉖―「おもてなしの品質管理」

Posted on 2017-08-23

旬刊旅行新聞8月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉖です。
「おもてなしの品質管理」

おもてなし接客術26

おもてなし接客術26

 普及しているマーケティング用語に「PDCA」がありますが、「接客」もれっきとした商品です。マニュアルの作成や研修といった「P」や「D」も大切ですが、接客・おもてなしレベルを維持するには「C」で品質管理を行うことが重要です。
 
 〝作りっぱなしの商品〟にならないようにしましょう。過去に集中的な研修と接客マニュアル作成を担当した旅館で、再度研修の依頼を受けました。手前味噌で恐縮ですが、研修とマニュアル作成を担当してから、お客様の評価がぐんと良くなった旅館で、集中研修やマニュアル作成から4―5年経過した今でも研修の依頼があります。
 
 さて、今回初めて私の研修を受けるという方は若干1名。それ以外のメンバーは以前にも私の研修を受けたことがあるというベテランメンバーでした。ベテランとはいえ、社員は1人。ほかは全員パートです。
 
 口コミ評価や館内アンケートで、接客の評価は良かったものですから、さほど問題もないだろうと思って臨んだ研修でしたが、いざ始めてみると、なんとなく流れは踏襲できているものの、ところどころ抜け落ちてしまっている動作が見受けられました。また、ちょっとした質問をしてみると、途端にあたふたしたり、一気に崩壊してしまうような惨状でした。表面的には感じの良い接客ができているものの、中身が伴っていないのです。
 
 「このレベルの接客で、良くこんなに高い評価を貰えていますね」と苦言を吐いてしまう結果となってしまいました。
 
 研修を総括すると、行動の意義や目的が抜けている部分が多く、なんとなく小手先の接客技術に意識が向いていることがわかりました。
 
 「目的」と「手段」を混同してしまい、目的が無いまま手段に徹してしまっているような印象を受けました。なぜこのようなことが起こるかというと、スタッフが一つひとつの動作の意味合いをしっかり理解していないのです。
 
 単純に「マニュアルで決まっているから」という覚え方ですと、それ以上になろうとは思わないし、時間の経過とともに少しずつ動作が脱落していってしまうものです。
 
 スタッフの一つひとつの行動や言動で、お客様にどのような印象を与えることができるか、宿側にとってどのような効果やメリットがあるかを理解できていれば、このような事態にはならないはずです。
 
 表面的ではなく、中身を伴った接客・おもてなしを提供できてこそ安定的な評価を頂けるものです。
 
 お客様評価も大切ですが、宿として求めるレベルが十分達成できているかという視点での評価も忘れてはいけません。お客様評価が高いと言っても、是非定期的な点検をするよう心掛けていただきたいと思います。

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『おもてなし接客術』㉕―「お客様経験で磨くおもてなし」

Posted on 2017-06-13

旬刊旅行新聞6月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉕です。
「お客様経験で磨くおもてなし」

おもてなし接客術25

現在、旅館の料理提供のマニュアル作成の支援をしています。マニュアル作成にあたっては、準備物や動作確認が必要になるため、現場リーダーに、現状の接客の流れを確認すると、明らかにおかしい料理提供のルールが常態化していることがわかりました。

お客様が席に着いてドリンクオーダーを受けた直後に、御飯とデザート以外のすべての料理が一斉に並んでいたり、お客様が席に着いたタイミングで鉄板料理と鍋料理に着火をしているのです。数々の料理が一度に目の前に並べられると、1品1品としての料理の価値も下げてしまいますし、目の前の料理を食べることに一生懸命になってしまい、あまりお酒も進まないはずです。

そのリーダーは食事処でお客様として食事をした経験はないとのことでした。実際に一緒に食事をしたところ、「お客様は、こんな量のお料理をよくお召し上がりになりますね」とか、「先に料理が全て揃ってしまうと、後から来る楽しみがなくなってしまいますね」、「最初に、鉄板と鍋物の火は付けない方が良いですよね」など意見が出てきました。

さらに、「このタイミングでおしぼりが欲しいですね」、「やはり箸置きはあった方が良いですね」、「御飯は御櫃の方がありがたいですね」などの発見や意見が出てきて、現状の料理提供の仕方に問題意識を持っていただけました。

また、食事処の席の配置もおかしいことに気が付きました。この宿は観光のお客様も、ビジネスのお客様も宿泊していることから、食事処の椅子とテーブルの種類と配置は観光とビジネスとで明確に分けています。

ただ、食事開始時刻もまちまちで、品数も少なく比較的パッと召しあがるビジネスのお客様の方が食事会場の奥の方の席、一方で食事時間も決まり、品数も多く、ゆっくり召し上がる観光のお客様が会場手前に配置されていました。そこで、「手前側を観光のお客様にしてしまうと、ビジネスのお客様の出入りがあって落ち着かない上、会場奥の調理場近くに待機しているスタッフの目も届きにくいのでは」という問題提起をして、「ビジネスと観光の位置を変更してみては」と提案しました。実際の現場で確認すると、案の定変えた方が良いという結論にいたりました。

旅館の経営者は、スタッフから下の名前で呼ばれたり、敬語抜きで話すスタッフもいる程、従業員との距離が近く、諸々の権限も現場に預けるような方です。それなのに、今まで意見が出てこなかったのは、「社長が恐いからそんなこと思っても口にできない」という訳ではなく、思っていても口にする機会がなかっただけなのです。

日ごろ現場にいるスタッフにお客様経験をさせ、考えたり、感じたことを述べる機会を設けるだけでも現場はかなり改善できるはずです。

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『おもてなし接客術』㉔―「生産性向上には教育を」

Posted on 2017-04-16

旬刊旅行新聞4月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』㉔です。
「生産性向上には教育を」

おもてなし接客術24

2月に開催した旅館業経営者向けセミナーで、事例を中心に旅館の接客マニュアル作成の必要性について話をしたところ、仕事の依頼を多く頂きました。そこで、その内容の一部を紹介いたします。

旅館業界でも「生産性向上」が注目ワードになっていて、業務効率向上のためIT化や作業順序の見直しなどを徹底する動きが出ています。もちろん、その事も大切ではありますが、個人的にはIT化や業務見直しよりも、従業員の教育の方が先決であると考えています。

お客様との接客時間が長い旅館業でもっとも効率が悪いのは①接客の流れが確立していない②お客様からの質問に答えられない③お客様に満足してもらえない――ことだと考えています。接客の流れが確立していないということは、効率の良い動きをしている人もいればそうでない人もいるという状態です。

お客様の質問に答えられないということは、きちんとした知識を身に付けておけば30秒で回答できるものが、10分以上も時間がかかってしまうケースがあるということです。そして、お客様に満足してもらえないということは、リピーターにも繋げられていないということです。

接客の流れを確立し、質問にも即答できるスムーズな接客を提供できれば、接客においては、きっとお客様に満足してもらえるでしょう。

接客したお客様をリピーターや紹介客獲得に繋げられるのは、非常に生産性の高い行為だと言えますが、その反対は生産性の低い行為だということになります。従業員に効率の悪い3要素が揃ってしまうと、いくらIT化や業務効率化を推進したところで、生産性の向上は難しいものと考えています。

そこで提案したいのが、接客のマニュアルを作成するということです。一度きちんとした接客マニュアルを構築して、この3要素を網羅した上で、IT化などを推進すれば、明らかな生産性向上が実現できるでしょう。

旅館で「研修直後は皆頑張って教えられた通りのことをするんだけど、なかなか継続しなくて」という話は、研修を担当させていただく旅館で良くお寄せいただくご相談です。

実はその悩みを解決するのもこの接客マニュアルです。セミナーでご登壇いただいた南平台温泉ホテルでは、新入社員には、先輩に師事させるよりも何よりも先に、マニュアルを見せるようにしています。

そうすると、「新人さんはマニュアルを見てから現場に入るので、先輩である、私がマニュアルと違うことをしていると示しが付かない…。マニュアルに忠実に従わないといけない」という意識付けにもなっているようです。

生産性向上を実現するためにも、マニュアル作成をしてみてはいかがでしょうか。

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