連載コラム~おもてなし接客術~

『おもてなし接客術』⑮-おもてなしはタイミングが命

Posted on 2015-10-11

旬刊旅行新聞10月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑮です。
「おもてなしはタイミングが命」

おもてなし接客術⑮

先日、かねてより行きたかった寿司店「銀座久兵衛」さんに行きました。味もさることながら、最も印象的だったのは“板前さんの”おもてなしレベルの高さでした。久兵衛さんの接客の最前線は、板前さんです。注文を聞くのも飲み物への配慮もすべて板前さんが担当します。

私が足を運んだときも、カウンター内で寿司を握りながら常にお客様の動きに目を光らせていました。ちょっとした動きも見逃さずに、即座に仲居さんに指示を出していました。タイミングを逃さずに指示が出せるのは、寿司屋ならではの「符牒(ふちょう)」の為せる技です。符牒を活用して絶妙なタイミングでの接客が提供されていました。

私がはじめに冷たいお茶を注文して、その残りが少なくなってきたときに「温かいお茶と冷たいお茶とどちらになさいますか?」と聞かれたので、今度は温かいお茶を注文しました。お茶が手元に届いた後も、まだ熱そうで、少し蒸し暑かったので冷たいお茶を飲んでいると、板前さんが咄嗟に「冷たいお茶もお持ちしましょうか?」と声を掛けてくださり、何て気が利くのだろうと感心しました。その後すぐに符牒を使って仲居さんに指示を出し、間もなくして冷茶が運ばれてきました。

また、山葵焼酎を口にした隣の席の男性客が少しむせたところ、即座に仲居さんに水を持ってくるように符牒を使って指示する場面もありました。お客様のようすをしっかり観察しているが故に取れる行動です。私に冷茶を出すように指示するのも、隣の男性客にお水を出すように指示するのも、目の前で大きな声で言っていましたが、「○番に座っているお客さんに水1つ持ってきて」というストレートな表現とは違い、とても粋に聞こえます。

このような細かな気配りを寿司を握りながらできることに感心すると共に、その絶妙なタイミングには感服してしまいました。私の冷茶も、恐らく隣の男性に出されたお水も、少しでもタイミングが遅ければ「いえ、結構です」と答えていたと思います。久兵衛さんで符牒を使うのは、接客の内容だけでなく、タイミングも重視しているからこそでしょう。

久兵衛さんが多くのお客様に愛される理由が実感でき、改めて百聞は一見に如かずだと感じた経験でした。

私の定義する「思って為す」というおもてなしという面において究極を見た気がします。質だけでなく、タイミングにおいても改善を重ねて顧客満足度向上につなげていきたいものです。

※符牒…同業者内、仲間内でのみ通用する言葉、また売買の場や顧客が近くにいる現場などで使われる独特な言葉のこと。接客や作業をしているときに、符牒を使用することによって客に知られずに必要なコミュニケーションを行える。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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『おもてなし接客術』⑭-おもてなしは画面の前でも

Posted on 2015-08-28

旬刊旅行新聞8月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑭です。
「おもてなしは画面の前でも」

おもてなし接客術⑭

「おもてなしは宿の外でも」といった前回に続き、今回は「おもてなしは画面の前でも」をテーマにしました。

今や、旅行の情報収集をインターネットでする人が約7割とも言われています。お客様との対面時と同様に、Webサイトでのおもてなしも忘れてはいけません。お客様が利用しやすいサイト作りができているかどうかを、おもてなしの視点でも今一度見直していただきたいと思います。

例えば、宿のネット予約の3―5割をスマートフォン経由が占めるなか、スマートフォンで閲覧・予約しやすいサイト作り(レスポンシブデザイン、スマートフォン専用サイトの設置)ができているでしょうか。

トップページからお客様が探したい情報にアプローチでき、宿泊プランの特徴が分かりやすく、選びやすい。条件検索や予約しやすい予約システムを使用しているかなどです。

とくに交通アクセスについては、皆さんの会社のサイトでは、おもてなしが伝わる道案内ができていますでしょうか。

具体的には、土地勘のない、初めていらっしゃるお客様を不安に感じさせない、懇切丁寧な説明ができているかということです。

私は仕事柄、観光協会や宿のサイトを見る機会が多いのですが、交通案内が不親切だと残念に思うことが数多くあります。「ページには住所や電話番号、地図へのリンクが掲載しているので大丈夫」というのは大きな間違いです。

確かに最近はカーナビやスマートフォンも普及しているのでそれらの情報があれば事足りるかもしれません。それでもお客様にとって初めて行く場所に不安は付きものです。お客様は迷わないように地図を拡大して目印を見つけたり、距離や所要時間の計算をしたりしています。カーナビも万能ではなく、目的地がわからないまま「目的地周辺です。音声案内を終了します」と案内が流れて終了してしまい、「結局どこ?」と迷って周辺をウロウロした経験が過去に何度もあります。

目的地には着いたものの駐車場がわからず、一度車を降りてスタッフに聞きに行ったことも少なくありません。「アクセスページにきちんと記載しておけば良いのに」とおもてなしへの不満を感じることは多々あります。

会社の交通アクセスページを見れば、不安に思うことなく、自分で調べなくても迷わずに到着できる親切な案内をしてこそおもてなしです。さらに言えば、近くの観光地や人気店からお越しになるお客様のために、それらの場所からのアクセ
ス情報も載せておくと一層親切でおもてなしの伝わるWebページになると思います。

お客様のことを「思って」「為す」ことこそのおもてなし。是非画面の前(Web上)でも実践してみてください。

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『おもてなし接客術』⑬―おもてなしは宿の外でも

Posted on 2015-06-11

旬刊旅行新聞6月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑬です。
「おもてなしは宿の外でも」

おもてなし接客術⑬

宿で働く皆様は、滞在中のお客様にいかに喜んで、満足していただけるかを常に考えていると思いますが、宿の中のことばかりに囚われすぎてはいませんか。お客様の宿の評価を良くする要素は宿の外にも転がっています。

お客様が宿の評価をするときは、滞在前後の経験も含めて総合的に判断するものです。宿の設備やスタッフ、清掃面など、宿内部のことをチェックするのはもちろんですが、宿に余程の魅力がある場合を除いては、お客様は周辺環境を含めてリピーターになるかどうかを決めます。いくら宿が良くても、滞在前後に良い思い出を作れなければ「宿は良かったけど、周りが退屈だから2度目は無いよね」という判断を下し、良い思い出を作れれば「宿も良かったし、周りにも面白いスポットが沢山あるからまた来よう! 誰かに紹介しよう!」と考えてくれるものです。

以前訪れたことのある宿のロビーには、十数種類の切り口で宿周辺の店や観光スポットを紹介する用紙がパンフレットラックに用意されていました。具体的には、「キッズ向け観光情報――冬ver.」「お勧めの夜の過ごし方」「カフェ巡り」「ランチ」「居酒屋」「雨の日の過ごし方」「デート」「ゆっくりのんびりおススメの過ごし方」「お店巡りのお手伝いマップ」「お散歩MAP」など。もちろんすべて宿の手作りで、形状はA4用紙に白黒印刷されたシンプルなものです。

こう書くと、周辺の施設が充実している宿のように思えるかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ宿の周りに何も無いといった表現の方が適当だと思います。そのようななかで、これだけ多くの過ごし方を提案する姿勢からは、お客様に旅行の良い思い出を作っていただきたいという宿の気持ちが伝わってくるものです。また、各用紙には、作成日時が記載されており、すべての用紙がここ3カ月以内に更新されていたことからは、常に最新の情報をお客様に提供しようとする気遣いが感じられました。

多くの宿泊客がそれを手に取って部屋に向かっていましたし、私も手に取ったことで滞在をより充実させることができました。この宿の過ごし方の提案が無ければ、乳牛と間近に触れ合ったり、特別な海の絶景や満天の星空を眺めたりすることもなく旅を終えていたでしょう。恐らく「周りに何も無くて退屈だった」という評価しかできなかったと思います。お客様が退屈しないようさまざまな過ごし方を提案するという、宿のおもてなしがお客様の滞在時評価を好転させることに成功した取り組みです。

お客様へのおもてなし。もちろん宿の中での受け入れ態勢を整えることが第一優先ですが、宿内部のことに終始するのではなく、少し視野を広げてみると新たな取り組みが見つかるかもしれません。

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『おもてなし接客術』⑫―曖昧な質問にも的確に

Posted on 2015-04-11

旬刊旅行新聞4月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑫です。
「曖昧な質問にも的確に」

おもてなし接客術⑫

「お客様からのご質問」=「お客様から与えていただいた接客の機会」です。その折角の機会を一方的で的外れな回答で台無しにしていませんか?

あるお宿様での研修で「おすすめを聞かれた場合の対応の仕方」について指導をさせていただきました。ロールプレイングのなかで、お客様役の私が「お土産を買いたいのですが、何かおすすめはありますか」と質問すると、スタッフ役の支配人は宿のオリジナルコスメ(化粧品や美容液等)や紅茶をすすめてきました。自社製品を販売しようという姿勢は悪いことではないのですが、私の質問の意図としては「地元の銘菓などを紹介してほしかった」ので、的外れな対応として減点としました。

支配人へのフィードバックの際には、お客様からの漠然とした質問にはそのまま漠然と答えようとせずに、お客様の特徴を見たりヒアリングを重ねてお客様の好みを探ったりしたうえで、なるべくお客様のニーズにあった適切なものをおすすめするようアドバイスをしました。「お土産」と一言にいっても「食品」も「伝統工芸品」も当てはまります。食品をイメージしているお客様に伝統工芸品をすすめるのは相応しい対応とはいえません。さらにいえば「食品」のなかにはお菓子も地酒もおかず類も含まれるので、お客様が何をイメージしているのかを限定してからおすすめしないとやはり見当違いな対応となってしまいます。

従って、お客様に先述のような漠然とした質問をされた場合には、①「地元の銘菓などをお探しでしょうか?」②「評判の地酒があるのですが、お酒は飲まれますか?」③「どのようなタイプのお土産をお探しですか?食品ですとか伝統工芸品ですとか……」④「電車でお越しなのであまりお荷物にならないお土産がよろしいですよね?」――などとお客様の特徴やニーズを踏まえておすすめすることこそが“おもてなし”と私は考えています。

ヒアリングの際にも、やはり漠然とした質問とならないよう注意が必要です。例えば③の質問の仕方が「どのようなタイプのお土産をお探しですか?」と、具体例が無いままですと、あまり良い質問の仕方とはいえません。回答しづらくストレスに感じるお客様もいらっしゃるかもしれません。好みや要望にある程度の方向性を持って質問されるお客様がほとんどだとは思いますが、なかには方向性がまったく無く、本当に漠然とした回答を求めているお客様もいらっしゃると思います。そのようなお客様にはお客様の特徴のみを踏まえたうえで、一番のおすすめを紹介すれば良いでしょう。

お客様(のご質問)に興味・関心を持ってさえいれば、自然と皆さんの方からヒアリングが進むはずです。お客様が期待する回答を的確に提供できるスタッフは、お客様評価も高いものです。

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『おもてなし接客術』⑪―期待を超えるおもてなしを

Posted on 2015-02-11

旬刊旅行新聞2月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑩です。
「期待を超えるおもてなしを」
 

 
顧客満足には、期待と事実との比較がともなうものです。期待よりも事実が優れば顧客満足に、反対に期待よりも事実が劣ればクレームにつながります。皆さんのところへ来られるお客様は必ず期待を持っています。期待が無いお客様はそもそも皆さんの商品・サービスを利用しようとは思わず、他店を利用するものだからです。 
 
期待を持てない店にお客様は来ないので、販促物のクオリティを上げたり、予約対応のメールや電話のおもてなしを強化したりするなど、お客様の期待値を上げる取り組みは必要です。しかしながら、期待値を無駄に上げてしまっては、返ってお客様をがっかりさせてしまうことがあります。
 
先日、3つ星レストランで食事をする機会がありました。人気店なので事前に電話で予約をしたところ、記念日での食事がどうか聞かれたので、「誕生日祝いを兼ねての食事です」と答えました。すると「花束やケーキのご用意もできますけれどもいかがなさいますか?」と聞かれたため「検討しておきます」と返事をして電話を終えました。食事の2日前になってお店から予約確認の連絡が入り、花束やケーキの手配についても再度確認があったため、「結構です」と手配不要の旨を伝えました。当初の予約時の情報がきちんと引き継がれていることがわかり、安心・信頼のできる対応でした。
 
過去の経験からすると記念日である旨を伝えたからには花束やケーキの手配は頼まずとも、スタッフからお祝いの言葉を掛けられたり、デザートのプレートに「HappyBirthday」の文字を入れていただいたりすることが多かったので、こちらのお店でもきっと何かあるかもしれないと期待しながら食事の時間を迎えました。しかしながら、そのような類のおもてなしは一切なく、後味の悪いものでした。予約時の情報伝達はきちんとされていただけに、非常に残念でした。
 
実はこちらのお店にはコールセンターがあります。恐らく、電話口と店舗で接客するスタッフが完全に分かれていて、店舗側には食事の目的などこちらの情報は、一切伝わっていなかったのだと思います。コールセンターの方は、お客様が記念日かどうかよりも、記念日を祝うためのグッズが必要かどうかの方が重要なのでしょう。
 
記念日か聞かれた以上、お客様は何かしらのサービスがあるかもしれないと期待するのが普通です。聞かれなければ生まれなかった、いわば店側が押し付けた期待にもかかわらず、それに応えることができなかったのです。コストをかけずとも、気遣いでできることもあるはずです。 お客様が皆さんのお店や皆さん自身に対して、あるいは皆さんの行動・言動を受けて何を期待しているのかをしっかりと想定し、それ以上のおもてなしをすることで顧客満足につなげてください。

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