連載コラム~おもてなし接客術~

『おもてなし接客術』⑰-タクシー運転手のおもてなし

Posted on 2016-02-11

旬刊旅行新聞2月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑰です。
「タクシー運転手のおもてなし」

おもてなし接客術⑰.jp

先日、長野県の松本城周辺でタクシーに乗りました。バスで移動もできましたが、迷った末にタクシーを選ぶことにしました。金額にするとバスが200円、タクシーが2500円と約12倍の開きがありましたが、そのことで料金差に価値を感じさせてくれる、タクシー運転手さんとの嬉しい出会いがありました。

何に価値を感じたかというと、とにかく物知りという点でした。タクシーの運転手さんなので、松本市内の地理はもちろんですが、歴史に対する知識が豊富で面白いのです。おかげで松本に対する興味が深まりました。

車を走らせながら、「この地区は昔○○だったので今の地名に由来しているのです」とか、「昔はここがお城の外堀だったのですが、今はこの一部だけ残っています。外堀復元の工事がはじまるので、また風景がガラリと変わると思います」。

また、「松本城は烏城と呼ばれていますが、地元では烏城と呼ぶ人はいません」、「いまはお城と聞けば松本城のような城を思い浮かべますが、昔は一軒家に塀があればそのお家はお城だったのですよ」などと、地元の人ならではの案内をしてくれました。

こちらの質問にも的確に回答していただき、乗車中に退屈することはありませんでした。今度松本でタクシーに乗る機会があれば、この運転手さんを指名したいと思うほどです。

このタクシー会社は、観光タクシーのサービスも提供されています。私が乗車したタクシーの運転手さんは、知識も豊富で話術も見事でしたので、おそらく観光タクシーも受け持たれているのだと思います。

運転手さんのおかげで、もっと松本を知りたい、観光したいと思うようになりましたので、もう一度足を運びたくなるのは必然です。

観光地のタクシー運転手のあるべき姿を見た気がします。この経験から、同じことを旅館のスタッフにも求めたいと思っています。

“特定の旅館に泊まりたいからその地域を訪れる”お客様はもちろんいらっしゃいますが、それよりも“特定の地域を訪れたいからその地域の旅館に泊まる”というお客様の方が圧倒的に多いと思います。いくら旅館の料理や施設、接客が良くても、そもそも地域の魅力が無ければ、お客様はなかなか再来してくださいません。

その穴埋めができるのは、やはりスタッフの接客力ではないでしょうか。今回の運転手さんのように、地域の魅力を伝えられるよう、歴史・文化などの知識を身に付けてお客様の地域に対する関心を高めることができれば、今まで以上にリピーターを増やすことができるはずです。

今後の接客研修では、リピーターを増やすための仕組みづくりとして、地域の魅力を伝えられる能力にもスポットを当ててみようと考えています。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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*おもてなし接客本、出版しました!「ちょっとした心づかいでこんなに変わる! おもてなし接客術」

『おもてなし接客術』⑯-おもてなしは自分磨きから

Posted on 2015-12-11

旬刊旅行新聞12月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑯です。
「おもてなしは自分磨きから」

おもてなし接客術⑯

おもてなし接客術⑯

先日旅館の求人ページ作成の仕事で、スタッフの皆さんにインタビューをしました。予約、フロント、仲居、調理場、売店などあらゆる部署のスタッフの方とお話をさせていただき、キャリアステップや先輩の声といったコンテンツを作成しています。お客様評価が非常に高く、リピーターも多い旅館様ですので当然かも知れませんが、仲居さんの会話スキルの高さに圧倒されました。さすがは、お客様と接する時間が長い部署だけあって、相当鍛えられているなといった印象を受けました。

こちらの意図を汲み取り、聞きたいことを先回りして話してくださる、そう感じる場面が多く、会話のキャッチボールがスムーズにできていることを実感しました。話をさせていただいてとても気持ちが良かったです。

このように心地良い気分にさせてくれる仲居さんたちが、普段どんな取り組みをしているかというと、『自分磨き』でした。とくにリピーターのお客様から指名が入る仲居さんは、並々ならぬ努力をしています。

最新の地域情報誌を常にバッグのなかに入れて持ち歩いていたり、旅番組を欠かさずチェックしていたり、担当するお客様がお住まいの観光地や特産品、ニュースについても調べるのが日課となっていました。

知識や情報を持っていないとお客様との会話が盛り上がれず、まさに会話のキャッチボールができないということを認識しており、なるべく話題を共有できるよう意識しているとのことでした。

このことは私の研修でも触れています。お客様とのコミュニケーションを、宿からの案内事項を伝えることやお客様の質問に答えること、と勘違いしているケースが多いためです。本来コミュニケーションとは、相互的なものであって、興味があるが故に成り立つものです。

そもそもお客様は皆さんの旅館に興味があるから泊りに行くのです。皆さんもお客様に興味を持つことで、初めてコミュニケーションを取ることができるのです。

自分の担当するお客様に興味を持って下調べすることこそ、相手のことを思って為すおもてなし接客です。

今回のインタビューを通じて改めて仲居という職業のレベルの高さと、遣り甲斐を感じています。個人的には、仲居業=究極のおもてなし業の1つと考えており、接客を極めたい方にとっては最高の職業だと考えています。

ただ、「おもてなし」がこれだけ取り上げられ、日本文化が見直されているにもかかわらず、仲居を目指す人たちが増えず、仲居のイメージがいつまでたっても良くならないのは非常に残念でなりません。外国人に価値を見出されて日本人が再認識するという日本の観光地で起きている現象が、仲居という職業にも当てはまればと期待する今日この頃です。

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『おもてなし接客術』⑮-おもてなしはタイミングが命

Posted on 2015-10-11

旬刊旅行新聞10月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑮です。
「おもてなしはタイミングが命」

おもてなし接客術⑮

先日、かねてより行きたかった寿司店「銀座久兵衛」さんに行きました。味もさることながら、最も印象的だったのは“板前さんの”おもてなしレベルの高さでした。久兵衛さんの接客の最前線は、板前さんです。注文を聞くのも飲み物への配慮もすべて板前さんが担当します。

私が足を運んだときも、カウンター内で寿司を握りながら常にお客様の動きに目を光らせていました。ちょっとした動きも見逃さずに、即座に仲居さんに指示を出していました。タイミングを逃さずに指示が出せるのは、寿司屋ならではの「符牒(ふちょう)」の為せる技です。符牒を活用して絶妙なタイミングでの接客が提供されていました。

私がはじめに冷たいお茶を注文して、その残りが少なくなってきたときに「温かいお茶と冷たいお茶とどちらになさいますか?」と聞かれたので、今度は温かいお茶を注文しました。お茶が手元に届いた後も、まだ熱そうで、少し蒸し暑かったので冷たいお茶を飲んでいると、板前さんが咄嗟に「冷たいお茶もお持ちしましょうか?」と声を掛けてくださり、何て気が利くのだろうと感心しました。その後すぐに符牒を使って仲居さんに指示を出し、間もなくして冷茶が運ばれてきました。

また、山葵焼酎を口にした隣の席の男性客が少しむせたところ、即座に仲居さんに水を持ってくるように符牒を使って指示する場面もありました。お客様のようすをしっかり観察しているが故に取れる行動です。私に冷茶を出すように指示するのも、隣の男性客にお水を出すように指示するのも、目の前で大きな声で言っていましたが、「○番に座っているお客さんに水1つ持ってきて」というストレートな表現とは違い、とても粋に聞こえます。

このような細かな気配りを寿司を握りながらできることに感心すると共に、その絶妙なタイミングには感服してしまいました。私の冷茶も、恐らく隣の男性に出されたお水も、少しでもタイミングが遅ければ「いえ、結構です」と答えていたと思います。久兵衛さんで符牒を使うのは、接客の内容だけでなく、タイミングも重視しているからこそでしょう。

久兵衛さんが多くのお客様に愛される理由が実感でき、改めて百聞は一見に如かずだと感じた経験でした。

私の定義する「思って為す」というおもてなしという面において究極を見た気がします。質だけでなく、タイミングにおいても改善を重ねて顧客満足度向上につなげていきたいものです。

※符牒…同業者内、仲間内でのみ通用する言葉、また売買の場や顧客が近くにいる現場などで使われる独特な言葉のこと。接客や作業をしているときに、符牒を使用することによって客に知られずに必要なコミュニケーションを行える。

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『おもてなし接客術』⑭-おもてなしは画面の前でも

Posted on 2015-08-28

旬刊旅行新聞8月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑭です。
「おもてなしは画面の前でも」

おもてなし接客術⑭

「おもてなしは宿の外でも」といった前回に続き、今回は「おもてなしは画面の前でも」をテーマにしました。

今や、旅行の情報収集をインターネットでする人が約7割とも言われています。お客様との対面時と同様に、Webサイトでのおもてなしも忘れてはいけません。お客様が利用しやすいサイト作りができているかどうかを、おもてなしの視点でも今一度見直していただきたいと思います。

例えば、宿のネット予約の3―5割をスマートフォン経由が占めるなか、スマートフォンで閲覧・予約しやすいサイト作り(レスポンシブデザイン、スマートフォン専用サイトの設置)ができているでしょうか。

トップページからお客様が探したい情報にアプローチでき、宿泊プランの特徴が分かりやすく、選びやすい。条件検索や予約しやすい予約システムを使用しているかなどです。

とくに交通アクセスについては、皆さんの会社のサイトでは、おもてなしが伝わる道案内ができていますでしょうか。

具体的には、土地勘のない、初めていらっしゃるお客様を不安に感じさせない、懇切丁寧な説明ができているかということです。

私は仕事柄、観光協会や宿のサイトを見る機会が多いのですが、交通案内が不親切だと残念に思うことが数多くあります。「ページには住所や電話番号、地図へのリンクが掲載しているので大丈夫」というのは大きな間違いです。

確かに最近はカーナビやスマートフォンも普及しているのでそれらの情報があれば事足りるかもしれません。それでもお客様にとって初めて行く場所に不安は付きものです。お客様は迷わないように地図を拡大して目印を見つけたり、距離や所要時間の計算をしたりしています。カーナビも万能ではなく、目的地がわからないまま「目的地周辺です。音声案内を終了します」と案内が流れて終了してしまい、「結局どこ?」と迷って周辺をウロウロした経験が過去に何度もあります。

目的地には着いたものの駐車場がわからず、一度車を降りてスタッフに聞きに行ったことも少なくありません。「アクセスページにきちんと記載しておけば良いのに」とおもてなしへの不満を感じることは多々あります。

会社の交通アクセスページを見れば、不安に思うことなく、自分で調べなくても迷わずに到着できる親切な案内をしてこそおもてなしです。さらに言えば、近くの観光地や人気店からお越しになるお客様のために、それらの場所からのアクセ
ス情報も載せておくと一層親切でおもてなしの伝わるWebページになると思います。

お客様のことを「思って」「為す」ことこそのおもてなし。是非画面の前(Web上)でも実践してみてください。

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『おもてなし接客術』⑬―おもてなしは宿の外でも

Posted on 2015-06-11

旬刊旅行新聞6月11日に掲載されたコラム『おもてなし接客術』⑬です。
「おもてなしは宿の外でも」

おもてなし接客術⑬

宿で働く皆様は、滞在中のお客様にいかに喜んで、満足していただけるかを常に考えていると思いますが、宿の中のことばかりに囚われすぎてはいませんか。お客様の宿の評価を良くする要素は宿の外にも転がっています。

お客様が宿の評価をするときは、滞在前後の経験も含めて総合的に判断するものです。宿の設備やスタッフ、清掃面など、宿内部のことをチェックするのはもちろんですが、宿に余程の魅力がある場合を除いては、お客様は周辺環境を含めてリピーターになるかどうかを決めます。いくら宿が良くても、滞在前後に良い思い出を作れなければ「宿は良かったけど、周りが退屈だから2度目は無いよね」という判断を下し、良い思い出を作れれば「宿も良かったし、周りにも面白いスポットが沢山あるからまた来よう! 誰かに紹介しよう!」と考えてくれるものです。

以前訪れたことのある宿のロビーには、十数種類の切り口で宿周辺の店や観光スポットを紹介する用紙がパンフレットラックに用意されていました。具体的には、「キッズ向け観光情報――冬ver.」「お勧めの夜の過ごし方」「カフェ巡り」「ランチ」「居酒屋」「雨の日の過ごし方」「デート」「ゆっくりのんびりおススメの過ごし方」「お店巡りのお手伝いマップ」「お散歩MAP」など。もちろんすべて宿の手作りで、形状はA4用紙に白黒印刷されたシンプルなものです。

こう書くと、周辺の施設が充実している宿のように思えるかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ宿の周りに何も無いといった表現の方が適当だと思います。そのようななかで、これだけ多くの過ごし方を提案する姿勢からは、お客様に旅行の良い思い出を作っていただきたいという宿の気持ちが伝わってくるものです。また、各用紙には、作成日時が記載されており、すべての用紙がここ3カ月以内に更新されていたことからは、常に最新の情報をお客様に提供しようとする気遣いが感じられました。

多くの宿泊客がそれを手に取って部屋に向かっていましたし、私も手に取ったことで滞在をより充実させることができました。この宿の過ごし方の提案が無ければ、乳牛と間近に触れ合ったり、特別な海の絶景や満天の星空を眺めたりすることもなく旅を終えていたでしょう。恐らく「周りに何も無くて退屈だった」という評価しかできなかったと思います。お客様が退屈しないようさまざまな過ごし方を提案するという、宿のおもてなしがお客様の滞在時評価を好転させることに成功した取り組みです。

お客様へのおもてなし。もちろん宿の中での受け入れ態勢を整えることが第一優先ですが、宿内部のことに終始するのではなく、少し視野を広げてみると新たな取り組みが見つかるかもしれません。

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株式会社観光文化研究所 井川今日子

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